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第十話 皇弟殿下の嘘

last update publish date: 2026-08-22 09:13:35

白い煙の中で、私は黎星様の袖に口元を押さえられていた。

 甘く、苦く、喉を焼く匂い。

 目の奥が痛い。

 涙が勝手に滲む。

 けれど、それは悲しみの涙ではなかった。毒を含んだ煙が粘膜を刺し、体が勝手に逃げようとしているだけだ。

 白玉宮は混乱していた。

 女官たちの悲鳴。

 水を求める声。

 咳き込む音。

 誰かが倒れる音。

 皇帝陛下が玉蘭妃様の名を呼ぶ声。

 そのすべてが、白い煙の中でぼやけて聞こえた。

 私の耳には、玉蘭妃様の最後の言葉だけが残っている。

 ――皇弟殿下。

 黎星様が。

 皇弟殿下。

 宦官ではなく。

 皇帝陛下の弟。

 私は黎星様の腕を掴んだまま、声にならない声で尋ねた。

「……どういう、ことですか」

「話すな。吸い込む」

「黎星様」

「鈴花」

 いつもより低い声だった。

 叱る声ではない。

 拒む声だった。

「今は生きろ」

 その言葉に、胸が詰まった。

 またそれだ。

 また、生きろ。

 明霞姉様も、黎星様も、そう言う。

 でも、生きろと言う人ほど、私に大事なことを隠す。

 煙の中から、蘭々の声がした。

「鈴花! 鈴花どこ!? 返事して! いや返事したら煙吸
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